パート(4):湿気
正倉院正倉(校倉造り高床式倉庫)-奈良時代
※地上面の湿気・害虫から文物を守っています。〔下記の2棟(法隆寺 綱封蔵、唐招提寺 経蔵)も同様〕
住まいへの効用【1】
「高床式」で水・湿気には気を配っています
湿気をおろそかにしていると後で健康や経済的なダメージを負いかねないのが「カビ」・「ダニ」・「シロアリ」です。
「カビ」や「ダニ」・「シロアリ」が発生すると、不快なだけでなく、人体・建物に被害が生じる恐れがあり、除去・駆除・建物の改修補強等が必要となり、対処費用も掛かります。
昔から先人達は木造建築や食料・文物等が湿気に弱いことをわきまえていたので、その時代で最先端の建築技術で対応しました。
昔に比べて「シロアリ」は減っているようですが居なくなったわけではありません。
「シロアリ」は水と木が共存する場所をこのみ、木造住宅で湿気の多い場所や雨漏り・内部結露があると危険です。
法隆寺 綱封蔵(高床式倉庫)-平安時代
※「双倉」といわれる様式で中央3間が吹抜け部分です。正倉院も?
唐招提寺 経蔵(校倉造り高床式倉庫)-奈良時代
法隆寺 綱封蔵
ピロティ風の柱脚構成と、中央の吹抜け架構の組合
わせが、今見てもモダンな感じがします。
左側:平安時代の日本の建築様式と、
右側:ル・コルビュジェによる近代建築が、相通ずる部分があるように感じましたので並べてみました。
クルチェット邸(左側部分)
ル・コルビュジェ設計(1949年 アルゼンチン)
2層分のピロティと中庭の吹抜けを介して展開する、
診療所を兼ねた住宅です。
住まいへの効用【2】
「高床式」以外にも「基壇」・「亀腹」で水には気を配っています
法隆寺金堂:「基壇」
「基壇」
飛鳥時代に寺院建築の技術として大陸から伝来した礎石建築で、地面よりも高く土を盛って締固め(版築)、建物内部への水の侵入を防ぎつつ見栄えをよくした。
この高く盛った部分が「基壇」です。
「亀腹」
基壇を持つ建物の内部は土間(土足)ですが、8世紀ごろから建物内に床が張られるようになると、基壇は床下に隠れるように設けられ、白漆喰で固められるようになりました。これが「亀腹」で、建物周囲をめぐる縁で保護され、やはり水捌けを良くして、基壇外装を省略した形式と考えられます。
東大寺法華堂(三月堂):「亀腹」
サヴォア邸(1931年)
:ル・コルビュジェ
RC造、2階建て
近代建築の五原則を網羅
・ピロティ
・屋上庭園
・自由な平面
・水平連続窓
・自由なファサード
ピロティにより居住空間が空中に浮かんでいるかのような印象
丹下健三自邸(1953年)
木造、2階建て
1階は柱だけのピロティとし、
生活空間を2階に持上げた構成
間仕切りのフスマを開ければ 家中が一つの空間となる開放的な住まい。
2階の外周ランマ部分は透明ガラスが巡り、屋根が浮いて見えるような効果があります。
浜田山の家(1965年)
:吉村順三
1階:RC造、2階:木造
敷地が狭い上に、住宅密集地であるという悪条件を克服するために、鉄筋コンクリート造のキャンティレバーの上にのせて
2階を住居部分としている。
庭が広く取れるとともに、日照、通風、眺望、プライバシー
が確保されている。
スイス学生会館:ル・コルビュジェ
広島平和記念資料館:丹下健三
軽井沢山荘:吉村順三
木造住宅の基礎は、必ず鉄筋コンクリート造で構成します。
始めに、通常 土台の高さは地面から40~50㎝のところに設置します。
この土台の高さを上げれば住まい計画の展開が拡がるのでは!という提案です。
土台を上げれば工事費も上がりますが、空間を確保して生活をエンジョイするか。
下図の鉄筋コンクリート造部分を「プラットフォーム構造」と呼びます。
展望台にのぼって高いところからの景色を見たがるのは!?
⇩
「いいことがある」と遺伝子が記憶しているから
「いいこと」= 狩猟時代に経験した「いいこと」
狩り ⇒ 獲物を見つけなくては始まらない
⇩
高い所 ⇒ 獲物を見つけやすい ⇒ 生きていくために有利な場所として認識した
獲物を”見つける”というのは人間にとって特別に重要なことだった
疲れて弱ってきた獲物を捕まえる
⇩
つまり、獲物を見つけることさえできれば逃げられても構わない
II
獲物を見つけることが重要!!
⇩
高い所にのぼるのは ⇒ いいこと!!!
又、人間を襲う強い動物からは隠れ場所や逃げ場所になる
英国の地理学者 ジェイ・アップルトン
著作「景観の経験」の中で、人間の美意識としての「見晴らし = 隠れ家理論」を提唱した。
機会を求めて見晴らしを得たいという欲望と、
安全のために隠れ家に籠っていたいという二つの欲望がある。
人間や類人猿にとって「眺望」と「隠れ場」は
生きていくために必要不可欠なものであった。
人間は、遠くまで見通せる景色
「山頂」・「屋上」
や
さらに、隠れられる景色
「屋根裏部屋」・「ツリーハウス」に惹かれる
つまり、この遠くまで見通せる景色と、隠れられる景色を兼ね備えたものが「展望台」である。
人間は、「いいことづくめ」の場所だと本能的に記憶しているので
展望台などの高いところにのぼりたがる と考えられている。
”人間は本能的に高いところが好き”
※NHK ”チコちゃんに叱られる” (2023.01.13 再放送2024.07.27)
「なぜ人は展望台にのぼりたがるのか」より
樹上の秘密基地
「望楼のある住まい」計画
(階下は囲炉裏を囲んで)
京都の茶室:高台寺 時雨亭
(メインの茶室は眺望良好な2階にある)
※住まいもセキュリティを考慮すれば1階より2階の方がベター!?
「ドイツの風土」
私のドイツでの家は、‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(で、話が始まります。)
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(中略)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ヨーロッパ大陸は、気象的に気候に天地宇宙の恩恵をたっぷりと受けている。イベリア半島の
西南のはしや、「もうアフリカがそこからはじまる」といわれる南イタリアの部分をのぞいては、
この乾いたさわやかさはどうであろう。空に明るさが乏しい北国のうっとうしささえがまんする
なら、乾いて冷ややかなこの気候一般は、どれほどに古来、建築物や美術図書等々を保存する上
に役立ったろう!私の住むボンの河ぞい、‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(中略)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ヨーロッパの自然現象としての乾度と冷たさ──これは、ヨーロッパの風土と、精神風土とさ
らにそれらの所産である文化を考える上で、一つのおもしろくかつ極めて重要な手がかりとなる
もののように、私には思われて来た。
が、ヨーロッパの風土、精神風土のことはいまは一応さしおく。私が今日、指摘したいのは、
このような自然条件の中での生活に適した──それも何世紀にわたり、適しているという証明が
なされつづけて来た──家の構造や間取や装飾等々が、全く対照的に異なる自然条件をもつ日本
の今日の生活の中に、あまりにも思慮なく、とりいれられてしまっている事実なのである。
専門家の話によれば、北ヨーロッパの中でも湿度が高いと言われるこの、ボン一体──正確に
言えばラインラント・ウェストファーレン一帯は、日本の年間平均湿度の半分以下乃至三分の一、
であり、日本の空気中を満たすしめり気は、ありとあらゆる空中浮遊物すなわちゴミ埃のたぐい
にまつわりつき、それらをねばらせ重くさせ、落下させるという。落下ついでに、それらはまた、
いろいろの他のものも、ねばっているからこそ吸いつけて落ちて来る。綿ぼこりというのは、湿
地帯の現象なのだそうだ。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(中略)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
それなのに、高温多湿の、夏は亜熱帯地方よりひどい日本で、明治以来、北ヨーロッパ的洋館
と北ヨーロッパ的室内装飾が、あきもせず真似られて来たのは、思慮分別欠乏のせいか、物知ら
ずか、無知か、物真似か、私には解せない。高温多湿の亜熱帯地方なのに、エアコンをつけ得な
い一般向アパートをもコンクリートの箱につくってしまう──そして壁に露がしたたるの、湿気
でふとんがぬれるのと言う。ぬれるのは当り前で、コンクリートの箱は亜熱帯の建物ではないか
らである。敷きつめカーペットは洋風でハイカラだとこのごろ大へんな宣伝である。たしかに。
ただし、高温多湿向では決してないこともたしかである。ゴミと埃と湿度と暑気と虫との国で毛
織物を足もとに敷きつめる──エアコンが年じゅうついているなら話は別だが。
こう考えて来れば、多湿の、夏あつい国での白アリなどの害虫を思い、縁の下を高く、通風性
のある南洋風の高床に家をつくり、夏は足につめたく冬は保温性に富むたたみという独自のもの
を発明した昔の人間は、いまの物真似小僧インテリアデザイナーどもより、はるかにえらかった
のではなかろうか。
日本の場合、さらに困るのは、亜熱帯的夏季をもちつつなお、冬は零度にもなる、ということ
だ。湿度に加えて台風、地震もあることだ。
一言で言うなら、日本の住は、おそろしく多目的にかなうことを考慮しかつ種々雑多の天然災
害への配慮なくして成り立たない、困難なもの、なのである。日本はユニークな住を必要とする。
地震も(イタリアをのぞき)なく、湿度もほとんどなく、夏なお冷える北ヨーロッパの住を、家
のつくりからインテリアまで真似し、とりいれるという、この愚を棄てて、「われわれはどこに
いるのか」「この風土は何なのか」を、まず見極めたとき、はじめて新しい暮しの設計が出来上
るのではないだろうか。似たりよったりの風土気象をもつヨーロッパ各国すら、さきにのべたよ
うに、イタリアはイタリア、ドイツはドイツ、光まろやかなフランスはフランス、と、おのおの
「どこにいるのか」をちゃんと考えて、住の基礎をつくっているのである。いわんや、亜熱帯国
が、サハリン以北の北(ヨーロッパ)の国々の住を真似るに至っては、ただの物真似好きなどと
いう無邪気さではなく、自らを知らぬ愚としか言えない。
われわれはどこにいるのか。われわれはだれなのか。この問いは実は火急の問いなのである。
※この本は、1973年5月に書かれたもので、約半世紀前のものです。
今、私たちの地球は温暖化の影響によるとみられる気候変動により、世界各地で猛暑や干ばつ、
山火事、大雨・集中豪雨で災害が多発するようになりました。
日本でも台風や集中豪雨で、山崩れや、洪水による被害が多発しています。
つい先日(2024.09.21)、能登半島が集中豪雨による災害で、今年元日の地震に続いて多大な被害
が発生しています。
各自治体の洪水ハザードマップもこれからの気候変動による上記災害に耐えられるのかどうか。
心配は尽きません。「想定外」ということもありうるからです。
そして、温暖化が進んだとしても、地軸の変動がなければ、根本的な風土は変わらないでしょうが、海水温が上がり、大雨が増えることはもう間違いないように思います。
「湿気」も増えるということです。
インドネシア トラジャ 高床式住居
スマトラ島 高床式住居
タイ 高床式住居
※水害リスク対策
【洪水ハザードマップ作成根拠降雨量について】
・「計画規模」と「想定最大規模」の2種類を想定しています。
・「計画規模」:10~200年に1回程度の割合で発生する降雨量を想定しており、主に河川
整備など洪水防御に関する計画の基本となる降雨です。
・「想定最大規模」:想定しうる最大規模の降雨で、1,000年に1回程度の割合で発生する
降雨量を想定しています。
この想定は、国により、日本を降雨の特性が似ている15の地域に分け、
それぞれの地域において過去に観測された最大の降雨量により設定されて
います。
「想定最大規模」の場合、1,000年ごとに必ず1度はその規模の降雨があるという周期的
な発生を意味しているわけではない。
1年間で発生する確率が1,000年に1回程度(≒1/1000以下)という意味です。
つまり、「計画規模」、「想定最大規模」の降雨は、小さな確率ながらも毎年発生する
可能性があります。また、その降雨が連続して発生する可能性もあります。